残置物の対処法とは? 高齢者を受け入れる貸主が目を通すべき資料を一挙紹介
「残置物」とは、賃貸物件の入居者が退去の際に適切な処分を行わず、残していった物品のことです。残置物をめぐる問題は、賃貸借契約におけるトラブルの原因でもあります。
この記事では、高齢者を受け入れる賃貸物件のオーナーを対象に、残置物に関するルールや対応法、目を通すべき資料などをまとめてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.残置物に関する問題点
- 1.1.所有権の問題
- 1.2.撤去費用負担の問題
- 1.3.借主が亡くなられた場合の問題
- 2.「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の概要
- 2.1.策定された背景
- 2.2.モデル契約条項の内容
- 3.「残置物の処理等に関する契約の活用手引き」の概要
- 4.「【家主さん向け】60歳以上の単身入居者の死亡時、簡便な方法で残置物を処分する方法を取りまとめたガイドブック」の概要
- 4.1.委任者(入居者)が行うこと
- 4.2.受任者が行うこと
- 4.3.家主が行うこと
残置物に関する問題点
残置物によるトラブルはどのようにして起こるのでしょうか。ここではまず、残置物に関する問題点について具体的に見ていきましょう。
所有権の問題
残置物が問題となるのは、所有権に関する決まりが大きく関係しています。残置物には、「事前に貸主の了承を得ているもの」と「無断で残されたもの」の2つのパターンがあり、このうち前者は所有権が貸主に帰属します。
それに対して、無断の残置物は所有権が貸主に移らず、もともとの借主(前賃借人)に帰属したままとなるのです。そのため、法的には前賃借人に無断で処分や撤去は行えません。
勝手に処分をすれば損害賠償を請求される恐れがあるほか、器物損壊罪として刑事上の責任も問われてしまう可能性があります。この場合、適切な処理を行うには前賃借人と連絡を取り、撤去あるいは所有権の譲渡を求めなければなりません。
このように、残置物があれば貸主に負担が発生するため、引き渡しを受ける際には必ず立ち会いで点検を行うことが重要です。
撤去費用負担の問題
残置物について、前賃借人が権利を放棄する意思を示した場合には、貸主が処分や撤去を行えます。本来、借主には原状回復の義務があることから、撤去費用は前賃借人が負担しなければなりません。
しかし、実際に次に入居者を募集することを考えれば、貸主が処分費用を負担するケースもあるでしょう。残置物が家具や家電などであれば、処分費用もある程度のまとまった金額になるため、貸主にとっては負担となります。
借主が亡くなられた場合の問題
借主の退去に伴う残置物は、引き渡し時の立ち会い点検によって基本的には予防できます。一方、単身の借主が契約途中で亡くなられた場合には、生前の生活家財がそのまま残置物となります。
この場合、残置物の所有権は相続によって相続人に移るため、やはり貸主が勝手に処分することはできません。原則として、賃貸借契約の解除通知を相続人全員に対して行い、家財の取扱いについても相続人全員で決めてもらわなければならないのです。
多くの場合は、借主の連帯保証人が相続人であれば、代表者として手続きの窓口になってもらいます。しかし、連帯保証人も亡くなられていたり、連絡が取れなかったりすれば、貸主自らが相続人を探さなければならず、実務上の大きな負担がのしかかることとなります。
このように、残置物に関するリスクは、高齢の単身者が入居を断られてしまう理由にもつながっています。
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の概要
国土交通省では、残置物をめぐるトラブル回避を目的として、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しています。ここでは、モデル契約条項が策定された背景と内容について見ていきましょう。
策定された背景
前述のように、残置物に関するリスクは、賃貸物件への高齢者の受け入れが拒否される大きな原因となってきました。一方で、高齢者の単身世帯は年々増加しており、対応できる住居の安定的な確保は喫緊の課題となっています。
そこで、単身の高齢者が亡くなられた際に、スムーズに残置物が処理できるような仕組みとして設けられたのが「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。モデル契約条項は、使用が法令で義務付けられているわけではないものの、高齢の単身入居者に対する貸主の抵抗感を解消するのに役立つことが期待されています。
モデル契約条項の内容
モデル契約条項は、60歳以上の単身高齢者と賃貸借契約を交わす際(あるいは契約更新の際)に、万が一に備えて「死後事務委任契約」を追加して締結することを想定した契約書のモデルケースです。一般的な死後事務委任契約は、身寄りのない方が自身の死亡後の遺品整理や葬儀を専門家に委任する際に用いられ、費用は数十万円程度と高額なのが特徴です。
それに対して、モデル契約条項では委任契約の内容が「賃貸借契約の解除」と「残置物の処理」に限定されており、費用に関する規定もありません。そのため、賃貸物件の契約に特化した利用しやすい内容となっています。
入居者が亡くなられた際には、契約条項に基づいて受任者が相続人の意向を確認し、賃貸借契約の解除や残置物の処理を担当することとなります。そのため、貸主にとっては単身高齢者にも安心して部屋を貸せるようになるのが大きな利点です。
なお、受任者は入居者の推定相続人が望ましいとされていますが、難しい場合は管理会社や居住支援法人といった第三者機関が請け負うことを想定しています。
(出典:国土交通省 残置物の処理等に関するモデル契約条項)
「残置物の処理等に関する契約の活用手引き」の概要
モデル契約条項そのものは、あくまでも契約書のモデルとして策定されたものであるため、活用するためには貸主自身も契約に関する正しい知識を持っておく必要があります。そこで、国土交通省が公表している「残置物の処理等に関する契約の活用手引き」にも目を通しておくのがおすすめです。
手引きの内容は「残置物の処理を想定して賃貸借契約の締結時に貸主がすべきこと」と「モデル契約条項に関するQ&A」で構成されています。Q&Aはモデル契約条項の受任者がすべきことや入居者がすべきことなどに関するものとなっています。
モデル契約条項を理解する手助けにもなるため、併せて確認しておきましょう。
「【家主さん向け】60歳以上の単身入居者の死亡時、簡便な方法で残置物を処分する方法を取りまとめたガイドブック」の概要
残置物の処理に関して、国土交通省では「【家主さん向け】60歳以上の単身入居者の死亡時、簡便な方法で残置物を処分する方法を取りまとめたガイドブック」という簡単なガイドブックも公開されています。主な内容は、「モデル契約条項を利用する際の注意点」や「残置物の処理等を円滑に行う方法のすすめ」「委任者(入居者)・受任者・家主が行うこと」となっています。
ここでは、委任者(入居者)・受任者・家主が行うことについて詳しく見ていきましょう。
(出典:公益社団法人 全国賃貸住宅経営者協会連合会「【家主さん向け】60歳以上の単身入居者の死亡時、簡便な方法で残置物を処分する方法を取りまとめたガイドブック」)
委任者(入居者)が行うこと
入居者に行ってもらうこととしては、自身が亡くなった後に廃棄する家財と、残しておく家財(指定残置物)を整理することが挙げられます。そして、指定残置物についてはリストを作成し、「目印を分かりやすく表示する」「一定の場所に保管する」など、受任者がすぐに認識できるようにするのが理想です。
また、指定残置物を渡す相手については、リストに住所等の送付先も記載しておいてもらうといいでしょう。
受任者が行うこと
受任者は入居者が亡くなられた後に、家主と合意のうえで賃貸借契約の解除ができます。また、廃棄する家財については、入居者が亡くなられてから一定期間(少なくとも3ヶ月)が経過し、賃貸借契約が終了した後に廃棄することが可能です。
指定残置物は入居者から指定された相手に送付し、残された金銭や換価された金銭については相続人に返還します。なお、第三者機関が受任者になっているケースなどで、相続人が明らかでない場合、金銭は供託することとなります。
家主が行うこと
事前に死後事務委任契約を締結していれば、家主の負担は大幅に軽減されます。入居者が亡くなられたことを知ったときには、速やかに受任者に通知しましょう。
その後は、受任者が物件内に立ち入るために開錠などの対応を行います。また、受任者が残置物処理のために搬出する際は第三者の立ち会いが必要になるため、家主に対応を求められる可能性もあります。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:残置物とは?
A:残置物とは、賃貸物件の入居者が退去時や死亡時に残していった家財や物品のことです。無断で放置された残置物の所有権は前賃借人に帰属したままなので、貸主が勝手に処理することができないなどの大きな問題につながります。
Q:残置物の処理等に関するモデル契約条項とは?
A:残置物のリスクによって高齢単身世帯の入居が拒否される問題を解消するために、トラブル予防を目的として国土交通省が策定した契約条項のモデルです。賃貸借契約時に活用することで、残置物の処理を円滑に進められるようになります。
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