不動産取引における「水害ハザードマップ」説明のポイントと注意点
台風や集中豪雨などの自然災害の頻度は年々増加傾向にあり、不動産取引における水害リスクの説明の重要性も上がっているといえます。
2020年の宅建業法の改正では、不動産取引における重要事項説明の際に、水防法に基づくハザードマップを提示し、取引対象となる不動産の水害リスクを説明することが義務化されました。
この記事では、ハザードマップの概要や入手方法の紹介とともに、重要事項説明で説明すべき内容、注意点について解説します。
目次[非表示]
- 1.ハザードマップとは?
- 1.1.ハザードマップで分かること
- 1.2.ハザードマップの入手方法
- 2.不動産取引で水害ハザードマップの説明が義務化
- 2.1.不動産取引における水害ハザードマップの重要性
- 2.2.水害ハザードマップの説明事項と注意点
- 2.2.1.1.ハザードマップで対象物件の位置を示す
- 2.2.2.2.ハザードマップは入手可能な最新のものを使う
- 2.2.3.3.避難所についても位置を示すのが望ましい
- 2.2.4.4.相手方に水害リスクについて誤認させない
- 3.水害リスクに関する重要事項説明でよくある質問
- 4.まとめ|不動産取引におけるハザードマップの重要性を理解しよう
ハザードマップとは?
ハザードマップとは、自然災害が発生した場合に、その地域にどのような危険性があるのかを示した地図です。
ここでは水害ハザードマップを中心に、ハザードマップから何が分かるかや、入手方法について解説します。
ハザードマップで分かること
ハザードマップには、洪水や雨水・出水(内水)、高潮、津波、土砂災害などいくつかの種類があり、そのうち次の3つが水害ハザードマップと呼ばれています。
洪水ハザードマップ |
想定しうる最大規模の降雨によって河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域および水深を表示したもの |
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内水ハザードマップ |
想定しうる最大規模の降雨によって下水道管や水路からの浸水が想定される区域や浸水する深さなどの情報をまとめたもの |
高潮ハザードマップ |
台風などで高潮が発生した場合の浸水想定区域および想定される水深を表示したもの |
これら3つのハザードマップには、災害発生時に浸水が想定される範囲や浸水の深さが段階別に表されています。そのほか、避難場所や行政機関、ライフラインの一覧(連絡先など)が記載されている場合もあります。
次の画像は、大阪府大阪市浪速区の水害ハザードマップです。
(出典:大阪市「水害ハザードマップ(浪速区)大和川が氾濫した場合」)
(出典:大阪市「水害ハザードマップ(浪速区)内水氾濫した場合」)
(出典:大阪市「水害ハザードマップ(浪速区)高潮が発生した場合」)
大阪市の場合、洪水ハザードマップは対象地域に流れる河川ごとに作成されています。
オレンジの数字は災害時の避難所、緑の数字は津波の際に避難対象となるビルを示しているほか、大雨の際に冠水しやすいアンダーパスの位置(黄色の「!」マーク)などが示されています。
ただし、どのハザードマップを作成しているかは自治体によって違いがあるため、ハザードマップの公表率が種類ごとに異なる点を踏まえておきましょう。
水害ハザードマップに関していえば、洪水ハザードマップの公表率が90%以上であるのに対し、高潮ハザードマップでは約70%、内水ハザードマップは約11%の公表率にとどまります(2023年3月末時点)。
(出典:国土交通省「洪水浸水想定区域の指定と洪水ハザードマップの公表状況」)
ハザードマップの入手方法
ハザードマップは多くの自治体が作成しており、居住地域の自治体ホームページで閲覧できます。
市区町村の都市計画課などの窓口に、印刷されたハザードマップが置かれている場合もあるので、物件調査などで役所を訪問した際に併せて取得することもできるでしょう。
また、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」から、「重ねるハザードマップ」や「わがまちハザードマップ」にアクセスすることも可能です。
「重ねるハザードマップ」では、地図や写真上に洪水・土砂災害・高潮・津波の災害リスクを重ねて表示できるため、調べたい場所の災害リスクがひと目で分かります。
不動産取引で水害ハザードマップの説明が義務化
2020年(令和2年)8月28日、宅地建物取引業法施行規則が改正され、購入あるいは賃借希望者に水害ハザードマップを提示し、対象物件の所在地を説明することが義務化されました。
ここでは、不動産取引における水害ハザードマップの重要性と説明事項について解説します。
不動産取引における水害ハザードマップの重要性
宅地建物取引業法では、契約締結の判断に多大な影響を及ぼす重要な事項について、不動産の購入希望者や賃借人に対して事前に説明することを義務づけています。
近年は、2018年(平成30年)7月の豪雨や2019年(令和元年)の台風19号など、甚大な被害を及ぼす大規模な水災害が頻発しています。
このような背景の基、不動産取引において、水害リスクに関する情報が契約締結の意思決定するうえで重要な要素となることから、取引の対象となる物件の立地などについての説明が課されることになったのです。
水害ハザードマップの説明事項と注意点
重要事項説明における水害ハザードマップの説明事項と注意点は次のとおりです。
1.ハザードマップで対象物件の位置を示す
水防法に基づき作成された水害(洪水・内水・高潮)ハザードマップを提示し、取引の対象となる土地や建物の概ねの位置を示す必要があります。位置を示すにあたって、地番を正確に示すことまでは求められていません。
ただし、対象物件の所在地が浸水想定区域の外にある場合でも、水害ハザードマップ上の位置を示さなければならない点に注意が必要です。
この際、将来的に浸水想定区域が変更となる可能性がある点についても説明しておくことが望ましいでしょう。
2.ハザードマップは入手可能な最新のものを使う
市町村が配布する印刷物、または市町村のホームページに掲載されているものを印刷するなど、入手可能な最新版を使って説明を行う必要があります。
なお、2015年(平成27年)に改正された現行の水防法以前に作成され、現行法に対応する更新がなされていない古いハザードマップしかない場合は、当該ハザードマップに基づいて説明を行います。
3.避難所についても位置を示すのが望ましい
ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましいとされています。
ただし、位置を示した避難所が最適な避難先であると相手が誤認しないよう、物件周辺にある複数の避難所を選択肢として示すことが望ましいと考えられます。避難所についての詳細な説明を求められた場合は、自治体に問合せるよう案内しましょう。
4.相手方に水害リスクについて誤認させない
対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手が誤認することのないよう配慮することが求められます。
そのため「雨の降り方や土地利用の変化などによっては、地図で示されている浸水区域以外の場所でも浸水することがありますので、ご注意ください」あるいは、「洪水浸水想定区域に指定されていない区域においても浸水が発生する場合があります」などの文言を加えながら説明するとよいでしょう。
売買の取引に限らず、賃貸借契約であっても、重要事項説明を行う義務があります
水害リスクに関する重要事項説明でよくある質問
最後に、水害リスクに関する重要事項説明に関してよくある質問を2つ紹介します。
各市区町村のハザードマップが最新のものか確認しなければならないか?
取引の都度、ホームページに掲載されているハザードマップが最新のものであるかを市町村に確認する必要はありません。
取引対象となる不動産がある市町村のホームページに掲載されている水害ハザードマップを最新のものと判断して問題ないといえます。なお、ハザードマップの作成時点が分かる場合は、明記することが望ましいでしょう。
浸水想定地域内で顧客からより詳細な説明を求められた場合は?
取引対象となる不動産の所在地が浸水想定地域内にあり、顧客からより詳細な説明を求められた場合、水害ハザードマップに記載のある市町村の窓口に問合せるよう案内しましょう。
まとめ|不動産取引におけるハザードマップの重要性を理解しよう
水害リスクに関する説明は、買主や借主が契約の意思決定をするうえで重要な要素となるだけでなく、不動産の資産価値や生活するうえでの安全性に影響する重要事項であることを認識しておくことが大切です。
不動産取引時の重要事項説明において説明すべき事項は多岐にわたり、説明を怠った場合はトラブルになりうるだけでなく、宅建業法上の責任を問われる可能性もあります。
ハザードマップの入手方法や水害リスクに関する説明事項、注意点について、ぜひ参考にしてください。
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