改正大気汚染防止法の内容とは? 不動産会社が知っておくべき規制や罰則を解説
2021年4月に大気汚染防止法が改正されました。この改正は、建物の解体を行う会社だけでなく、リフォームやリノベーションを手掛ける不動産会社にも影響を与えています。
具体的には、石綿(アスベスト)対策の規制強化や、事前調査方法の法定化が行われました。法令を遵守するためにも、不動産会社は改正大気汚染防止法の内容を知っておきましょう。
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改正大気汚染防止法の概要
大気汚染防止法の改正により、石綿対策が変更されました。改正前は規制対象となっていない石綿含有建材もありましたが、この改正により、規制対象がすべての石綿含有建材に拡大されています。
ほかにも、都道府県などへの事前調査結果報告や、石綿除去や囲い込みなどの作業に関する記録の作成や保存も義務付けられました。石綿による健康被害を防ぐための対策が強化されており、建物の解体や工事をする際には、改正大気汚染防止法を遵守しなければなりません。
なお、石綿とは耐火・耐熱・防音などの性能に優れた天然の鉱物で、その便利さから建築材料に使用されてきました。その一方で、吸引すると肺がんや中皮腫などの健康被害を引き起こすことが明らかになり、現在は製造・使用が禁止されています。
既存の建築物の中には石綿が使用されているものがあるため、解体や工事をする際に空中に飛散した石綿を吸い込んでしまう恐れがあります。そこで、健康被害を防ぐために大気汚染防止法の改定に至ったのです。
大気汚染防止法の改正の概要
アスベストの特性と使用規制。2012年、石綿(アスベスト)含有製品の完全使用禁止
(出典:環境省「大気汚染防止法が改正されました」)
不動産会社が知っておくべき改正大気汚染防止法の内容
改正大気汚染防止法は、建築物の解体を行う会社だけでなく、リフォームやリノベーションを手掛ける不動産会社にも影響します。
ここでは、不動産会社が知っておくべき、改正大気汚染防止法の内容を解説します。
規制対象がすべての石綿含有建材に拡大
過去に、不適切な除去などによって石綿が飛散した事例が見られたことから、改正によってすべての石綿含有建材が規制の対象となりました。
規制対象 |
|
---|---|
改正前 |
・吹付け石綿 |
改正後 |
すべての石綿含有建材 |
改正に伴って規制対象に追加された石綿含有建材について、具体的には石綿含有成形板やセメント管、押出成形品などが挙げられます。
事前調査の方法が法定化された
改正大気汚染防止法では、解体や工事を行う前に石綿含有建材が使用されていないか事前調査する方法が法定化されました。具体的な調査方法は以下のとおりです。
● 設計図書その他書面による調査
● 現地での目視による調査
● 分析による調査
また、事前調査は以下の必要な知識を有する者によって実施しなければなりません。
● 一般建築物石綿含有建材調査者
● 特定建築物石綿含有建材調査者
● 一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て住宅や共同住宅の住戸の内部のみ実施可能)
● 義務付け適用前に一般社団法人日本アスベスト調査診断協会に登録されている者
なお、事前調査の結果は作業開始前(届出対象特定工事の場合は工事開始の14日前まで)に、元請業者などから発注者に書面で説明する必要があります。
アスベストの事前調査
(出典:環境省「大気汚染防止法が改正されました」)
事前調査記録の保存義務が課される
事前調査に関する記録は、写しを工事現場に備え置く必要があり、さらに工事終了後3年間保存しなければなりません。当該記録には、調査方法や調査終了年月日、調査者の氏名などを記載します。
なお、備え置きの方法は指定されていません。工事施工者や都道府県の担当者が立入検査を行う際に確認できる状態であればよいとされており、紙媒体と電子データのどちらでも問題ありません。
特定粉じん排出等作業の届出は発注者か自主施工者が行う
特定粉じん排出等作業の届出は、発注者か自主施工者が行うことが定められています。具体的には、石綿含有吹付け材、石綿含有保温材・断熱材・耐火被覆材を除去、封じ込めまたは囲い込む作業が該当します。
なお、届出事項は以下のとおりです。
● 届出対象特定工事の発注者の氏名又は名称及び住所並びに法人であってはその代表者氏名
● 当該届出対象特定工事の場所
● 当該特定粉じん排出等作業の対象となる建築物等の部分における当該政令で定める特定建築材料の種類並びにその使用箇所及び使用面積
● 特定粉じん排出等作業の種類
● 特定粉じん排出等作業の方法
● 特定粉じん排出等作業の方法が第十八条の十九各号に掲げる措置を当該各号に定める方法により行うものでないときは、その理由
(出典:環境省「大気汚染防止法が改正されました」)
対象となる工事を行う場合、作業開始日の14日前までに都道府県や市区町村に届出を行わなければなりません。
石綿(アスベスト)は、長く建築材料として使用されてきました。吹付け石綿、石綿含有断熱材・保温材・耐火被覆材、石綿含有成形板等(内装材、外装材)で使用されています
正しい方法で作業が実施されていない場合は直接罰が適用される
正しい方法で石綿除去などの作業が実施されていない場合や、必要な措置を取らずに作業した場合は、勧告・命令の手続きを経ず直接罰則が適用されることになりました。
この直接罰は、元請企業だけでなく、下請負人にも適用されます。なお、罰則内容は3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
石綿の除去等作業完了後は確認と発注者への報告が必要
石綿除去などの作業完了後は、石綿の取り残しや不適切作業による石綿の排出・飛散が生じていないかの確認が必要です。また、作業記録の作成や発注者ヘの報告が求められます。
工事を行った元請企業または下請負人は、工事における施工の分担関係に応じて、特定粉じん排出等作業の実施状況記録を工事が終了するまで保存しなければなりません。記録する事項や記録方法は、以下のとおりです。
記録事項 |
・確認年月日 |
---|---|
記録方法 |
作業基準の規定に適応した作業であることが確認できる写真、動画、点検記録等 |
記録の保存期間 |
特定工事が終了するまで |
(出典:環境省「大気汚染防止法が改正されました」)
工事の元請企業は、除去作業について石綿の取り残しがないこと、下請負人が作成した記録により作業が計画に基づき適切に行われているか確認する必要があります。
また作成された記録を保存し、囲い込みおよび封じ込めについては措置が正しく実施されているかどうかを「知識を有する者」に目視で確認させなければなりません。
罰則の対象が拡大された
改正大気汚染防止法では、特定工事の元請企業と自主施工者に加えて、下請負人も作業基準の遵守義務対象となりました。
工事の元請企業が、請け負った工事の全部または一部を他者に請け負わせる場合は、特定粉じん排出等作業の方法を下請負人に説明しなければなりません。
なお、下請負人に対して適用される罰則は以下のとおりです。
除去等の方法の義務違反 |
3月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
---|---|
作業基準適合命令違反 |
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
(出典:環境省「大気汚染防止法が改正されました」)
企業としての信頼を失う事態を防ぐのはもちろん、経済的な制裁を受けないためにも、法律の遵守は欠かせません。
災害に備え、国や地方自治体は石綿使用有無の把握に向けた取り組みを進めていくとしています
(出典:環境省「大気汚染防止法が改正されました」)
まとめ
改正大気汚染防止法では、石綿による健康被害を防ぐために、建築物の解体や工事をする際の規制が厳格化されています。具体的には、規制対象が拡大したり、事前調査記録の保存義務が新たに課されたりと、さまざまな規制が設けられました。
改正大気汚染防止法に違反すると、罰則が適用されます。建築物の解体やリフォーム、リノベーションを手掛ける不動産会社は、必ず法律の内容を押さえておきましょう。
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