ホームインスペクター(住宅診断士)とは? 調査内容と資格概要
不動産取引で活用される建物調査には、宅地建物取引業法に定められた「建物状況調査」のほか、民間資格「公認ホームインスペクター」による調査もあります。
ホームインスペクター(住宅診断士)は、建物の劣化や不具合箇所の有無を調査し、住宅の購入や売却、あるいはリフォームについての判断材料を提供する専門家です。
住宅の状態を診断し、リフォーム箇所や修繕時期をアドバイスするなど、顧客の信頼を得ながらの不動産取引促進に役立つ資格といえます。
この記事では、ホームインスペクションの内容や公認ホームインスペクター資格の概要・試験情報について解説します。建物調査に係る法改正も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.ホームインスペクションとは?
- 1.1.ホームインスペクションの範囲・調査内容
- 1.1.1.中古一戸建ての調査範囲
- 2.インスペクションと建物状況調査の違い
- 3.ホームインスペクター(住宅診断士)の資格の概要
- 4.ホームインスペクター資格試験の概要
- 5.ホームインスペクター資格試験の難易度
- 5.1.勉強方法
- 6.建物調査にかかる法改正
- 7.まとめ
ホームインスペクションとは?
ホームインスペクション(住宅診断)とは、住宅に精通したホームインスペクターが、第三者的な立場から、住宅の劣化状況や不具合箇所の有無を調査するサービスです。
このホームインスペクションを活用することで、購入希望者は実際に購入するかの判断材料にすることができ、売却する場合は詳細な情報開示や販売促進につなげられます。また、リフォームを行う際に、補修・メンテナンスすべき箇所を把握するためにも有効です。
ホームインスペクションの範囲・調査内容
ホームインスペクションは、中古住宅だけでなく新築にも活用されます。
共用部に囲まれているマンションよりも一戸建てのほうがより広範囲に調査できるため、一戸建てに対して実施されることが多い傾向があります。
サービスを提供する会社によって調査の範囲・内容は異なりますが、中古一戸建ての主な調査範囲は次のとおりです。
中古一戸建ての調査範囲
【外回り】
基礎・外壁・屋根・軒裏・雨樋・外部金物・バルコニー・外部階段
【室内】
壁・柱・梁・床・天井・階段・サッシ・ドア・シャッター・雨戸など
【床下】
土台・床組み・基礎・床下面・束
【小屋裏・天井裏】
梁・桁・小屋組み・野地板・(各階間の)天井裏・下屋小屋裏
【設備】
給排水設備・給湯設備・換気設備・火災報知器など
調査は、主に目視・打診・触診・計測で行われ、レーザー墨出し器や水平器などの専用機材を用います。
調査結果を報告書としてまとめ、調査箇所や建物の状態の説明、不具合箇所などがあれば修繕のアドバイスを提供して完了です。
ホームインスペクションを実施することによって、調査時点の建物の劣化や不具合を発見することが出来ます
インスペクションと建物状況調査の違い
広い範囲で使われることの多いインスペクションは、宅建業法に定められた「建物状況調査」とは異なる部分もあります。
インスペクションは、ホームインスペクションや住宅診断、建物調査という意味でも使われ、「住宅に対して実施される検査」全般のことを指します。そのため調査を実施する会社によって、調査項目や劣化状況などの判断基準が異なる部分もあります。
一方、「建物状況調査」は宅建業法において定められた基準に基づくものです。国が定めた講習を修了した建築士が、中古住宅の劣化や不具合箇所の有無を調査します。
調査対象となるのは、基礎・外壁など「構造耐力上主要な部分」と屋根や軒裏などの「雨水の侵入を防止する部分」およびオプションで給排水管です。
建物状況調査の調査はおよそ40項目であるのに対し、インスペクションを提供する会社のなかには、100項目以上を調査する会社もあります。
宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A
(出典:宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A~ 「宅地建物取引業法」改正に伴う新たな制度に関して ~)
ホームインスペクター(住宅診断士)の資格の概要
公認ホームインスペクター(住宅診断士)とは、NPO法人 日本ホームインスペクター協会(JSHI)が認定する民間資格です。
資格を取得することで、住宅診断のプロとして、建築・不動産取引・住宅診断などにおける一定の知識を有することを対外的に示すことができます。
建物の劣化状況や欠陥の有無だけでなく、中立的な立場でメンテナンスすべき箇所や修繕時期などをアドバイスできる資格として、建築・リフォームに従事する方はもちろん、仲介営業の担当者にも有用な資格といえます。
「JSHI公認ホームインスペクター」と名乗るには、試験に合格し認定会員として入会登録する必要があります。
ホームインスペクター資格試験の概要
ここでは、ホームインスペクター資格試験の概要を紹介します。以下は試験の概要をまとめたものです。
受験資格 |
年齢・学歴・保有資格関係なく誰でも受験可 |
---|---|
試験日 |
毎年3月・6月・9月・12月の1日~14日(年4回) |
試験会場 |
全国260以上のCBT※試験会場から選択 |
受験料 |
15,000円(税込) |
出題方法・問題数 |
CBT方式50問の4肢択一試験 |
試験時間 |
90分 |
※CBTとは、コンピューターを使った試験方式
参照
NPO法人 日本ホームインスペクター協会「JSHI公認ホームインスペクター(住宅診断士)資格試験要領」
NPO法人 日本ホームインスペクター協会「JSHI公認ホームインスペクター資格試験スケジュール」
合格基準として、総合得点が合格点以上、かつ分野別得点が基準点以上であることが定められています。
ホームインスペクター資格試験の難易度
次の表は、直近の過去5年の受験者数や合格率をまとめたものです。
受験者数 |
合格率 |
合格点(50点満点) |
|
---|---|---|---|
第26回 |
107人 |
25.00% |
32点 |
第25回 |
77人 |
29.00% |
32点 |
第24回 |
83人 |
23.00% |
32点 |
第23回 |
110人 |
46.00% |
35点 |
第22回 |
110人 |
39.00% |
35点 |
参照:NPO法人 日本ホームインスペクター協会「過去の資格試験実績」
各分野(建築・調査診断・不動産取引流通・倫理)ごとの基準点をクリアしたうえで、全体の7割前後の正答率が求められる試験だということがわかります。
合格率は各回で差があり、直近3年では30%を下回っていますが、受験者の半数近くが合格している回もあります。
勉強方法
ホームインスペクター資格試験の勉強方法として、まずは公式テキストと過去問を中心にすることが挙げられます。過去の受験者向けのアンケートでも、テキストと過去問を活用した人が多い傾向です。
また、建築分野では、2級建築士の学科試験の出題範囲と重なる部分もあるため、2級建築士向けの書籍を参考にできます。一方の調査診断分野では、日本ホームインスペクター協会のYouTubeチャンネルで、具体的な診断業務をイメージしながら学習できます。
独学では不安な方は、ホームインスペクター資格試験対策の通信講座などを検討してもよいでしょう。
建物調査にかかる法改正
2024年4月1日に、建物状況調査に係る改正宅地建物取引業法施行規則等が施行され、建物調査に関する法改正がありました。
1つ目は、重要事項説明に関する内容です。過去に行われた建物状況調査について、重要事項説明の対象となるのは、調査実施から1年以内のものでした。これが、共同住宅(RC造等)については、調査実施から2年を経過していないものとされました。
鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅が対象で、住戸内・住戸外における調査を異なる調査者が実施することが可能とされたことを踏まえた改正となっています。
2つ目は、媒介契約に関するものです。標準媒介契約約款が改正され、建物状況調査のあっせんの有無で、あっせんを「無」とする場合、その理由を記載する欄が設けられました。
また、調査後のトラブル回避の観点から、「建物状況調査は瑕疵の有無を判定するものではない」などを明記することとされました。
(出典:国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款」から建物状況調査を実施する者のあっせんの有無を抜粋)
参照:国土交通省「既存住宅流通について(建物状況調査(インスペクション)活用に向けて)」
まとめ
公認ホームインスペクター(住宅診断士)は、建築や建物診断だけでなく、不動産取引の知識も有し、中立的な立場からアドバイスできる資格です。
建築会社やリフォーム会社はもとより、不動産会社においても、建物診断の専門家としてリフォーム計画や費用についてアドバイスすることで、顧客の信頼獲得やサービス向上につながります。
本記事を参考に、ホームインスペクションの知識を深め、業務への活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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