賃貸住宅管理業法とは? 管理会社に求められる5つの義務
賃貸住宅の管理業務の適正化とオーナー・入居者の保護を目的として、2021(令和3)年6月に賃貸住宅管理業法が施行されました。
この法律により、管理業者やサブリース業者には、重要事項説明や財産の管理などについて、法律にのっとり適切に実行することが求められるようになったのです。
この記事では、管理業者が遵守すべき5つの義務とサブリース契約上の規制、違反時の罰則について解説します。
目次[非表示]
- 1.賃貸住宅管理業法ができた背景
- 2.賃貸住宅管理業者に求められる5つの対応
- 2.1.賃貸住宅管理業の登録
- 2.2.業務管理者の配置
- 2.3.管理受託契約前の重要事項説明
- 2.4.財産の分別管理
- 2.5.オーナーへの定期報告
- 3.サブリース業者に対する規制
- 4.賃貸住宅管理業法における罰則と監督処分
- 5.まとめ
賃貸住宅管理業法ができた背景
かつてはオーナー自らが賃貸住宅を管理するのが一般的でしたが、市場の拡大やオーナーの高齢化、相続による兼業化により、管理業務を管理業者などに委託するケースが増えました。
その一方で、管理業者とオーナー、または管理業者と入居者の間でトラブルが頻発し、特にサブリース契約の問題が顕在化しました。
たとえば、「家賃保証」をうたっているにもかかわらず、管理契約後に頻繁に家賃が減額されたり、契約期間中にもかかわらず一方的な解約を求められたりするケースが相次ぎました。
加えて、単身世帯や外国人居住者の増加により、賃貸住宅の社会的役割が重要性を増していることもあり、管理業務の適正化が求められました。
これらの背景から、管理業務の透明性確保と、オーナー・入居者双方の利益保護を目的に賃貸住宅管理業法が制定されました。
賃貸住宅管理業法における登録事業者の役割
国土交通省 賃貸住宅管理業者登録制度パンフレットより
賃貸住宅管理業者に求められる5つの対応
賃貸住宅管理業法を遵守するために、管理業者が対応すべき5つのポイントを解説します。
賃貸住宅管理業の登録
賃貸住宅の管理を業務として行う場合、国土交通大臣の登録が義務づけられています(管理戸数が200戸未満の事業者は任意)。
登録申請には、所在地や管理業務に関する情報、経歴などの情報が必要です。申請を行うと、適正な管理業務を遂行できる財産的基盤があるかを審査されます。
業務管理者の配置
賃貸管理業務を営む場合、営業所や事務所ごとに1名以上の業務管理者を配置しなければなりません。
業務管理者の要件は次のとおりです。
・管理業務について2年以上の実務経験があり、登録試験に合格した人
・管理業務について2年以上の実務経験がある宅地建物取引士で、国土交通大臣指定の講習を修了した人
管理業務者には、建物・設備に関する知識や金銭の管理に関する経理上の知識に加え、賃貸借契約に関する法的な理解も求められます。
≫ 業務管理者とは? 要件や賃貸不動産経営管理士との違いを解説
管理受託契約前の重要事項説明
オーナーと管理受託契約の締結をする前に、書面で重要事項説明をすることが義務づけられています。
説明する内容には、次の事項が含まれます。
・管理業務の内容・実施方法
・契約期間に関する事項
・報酬額や支払い時期、方法
・契約の更新または解除に関する定めがある場合はその内容 など
重要事項説明は、賃貸不動産経営管理士など、一定の資格を有する者が行うこと、また説明から契約締結まで1週間程度の期間をおくことが望ましいとされています。
なお、オーナー自身が賃貸住宅管理業者やサブリース業者、宅地建物取引事業者の場合、重要事項説明の実施は義務ではありません。
財産の分別管理
オーナーと管理業者の財産の混同を防ぎ、管理業者による財産の不正流用を抑止するために、財産の分別管理が求められます。
具体的には、受領する家賃や敷金、共益費、その他の金銭を管理する口座と管理業者の固有の口座を区別し、管理受託契約ごとの帳簿を作成する必要があります。
オーナーへの定期報告
オーナーに対して、管理業務の実施状況を定期的に報告する義務があります。
具体的には、1年以内の期間ごとに、以下の内容を記載した管理状況報告書を作成し、報告します。
・報告の対象期間や管理業務の実施状況
・賃貸住宅の入居者からの苦情の発生 など
国土交通省は賃貸住宅管理業者登録制度の周知・普及を図るため、消費者と不動産オーナー向けにパンフレットを制作しています
賃貸住宅管理業者登録制度 そのメリットとシステムより
(出典:国土交通省 賃貸住宅管理業者登録制度 そのメリットとシステム)
サブリース業者に対する規制
賃貸住宅管理業法では、サブリース業者に対する規制も盛り込まれています。
以下は、規制内容をまとめたものです。
項目 |
規制の概要 |
---|---|
誇大広告の禁止 |
契約内容を実際よりも有利に見せかける誇大広告や虚偽広告を禁止しています。
|
不当な勧誘の禁止 |
契約時の虚偽説明や重要事項の不告知、オーナーの判断を妨げる行為を禁止しています。
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契約締結前の重要事項説明 |
家賃の改定や契約解除の条件、維持管理の方法などについて、事前に契約内容やリスクを記載した書面を交付し、説明しなければなりません。
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契約締結時における書面交付 |
契約締結時に、次の事項が記載された書面を交付することを義務づけています。
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書類の閲覧 |
以下の書類を事業年度ごとに作成し、事務所ごとに保管し、希望者には閲覧させる必要があります。
|
参照:国土交通省「賃貸住宅管理業法 制度概要ハンドブック」をもとに作成
「誇大広告の禁止」「不当な勧誘の禁止」については、賃貸住宅の建築請負や土地売買の際に特定賃貸借契約の締結を勧める建築会社や不動産会社などの 「勧誘者」に対しても適用されます。
賃貸住宅管理業法における罰則と監督処分
管理業者が適切に業務を遂行しない場合、業務改善命令や業務停止処分が下される可能性があります。
たとえば、重要事項説明義務違反(説明不足や虚偽記載)や財産の分別管理の不備などの法令違反は、業務改善命令(法第22条)の対象です。
さらに、悪質な違反、具体的には業務改善命令を無視した場合や、重要事項説明の不履行によってオーナーが損害を被った場合などには、最大で1年間の業務停止処分(法第23条)が科されます。
この間、新規契約の締結や既存の契約の更新はできません。
なお、業務改善命令や業務停止処分が下された場合、処分内容は国土交通省や自治体のホームページで公表されるため、オーナーや取引先との関係にも悪影響を及ぼしかねません。
また、サブリース業者の法律違反に対しても、指示処分や業務停止命令が出され、違反の程度が重大である場合には、1年以内の期間を定めて、業務の全部または一部を停止するよう命じられることがあります。
さらに、業務停止命令に背いた場合などは、6ヶ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、または両方の罰則の対象になります。
なお、国土交通省は2023(令和5)年度に全国179の賃貸住宅管理業者および特定転貸事業者を対象に立ち入り検査を実施し、その結果、106の事業者に対して是正指導が行われました。
国土交通省としては、今後も立ち入り検査などを通じた指導を行い、法令違反に対して厳正かつ適正な対処を進めていく予定です。
≫ 賃貸住宅管理業法の全面施行から2年。サブリース契約のトラブルは減少したのか
【概要版】賃貸住宅管理業者等への全国一斉立入検査結果(令和5年度)によれば、179社に立ち入り検査を実施し、106社に是正指導を行っています。最も多かった違反内容は、「管理受託契約の締結時の書面の交付義務違反(法第14条関係)」で57件でした
(出典:国土交通省 賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者への全国一斉立入検査結果(令和5年度))
まとめ
賃貸住宅管理業法の施行により、管理業者やサブリース業者は、適正な管理業務を行うことが求められるようになりました。
特に、サブリース契約の誇大広告や不当な勧誘は、意図せず法令違反に当たるリスクがあるため注意が必要です。
違反が発覚すれば、業務改善命令や業務停止処分が下され、最悪の場合、事業の継続が困難になる可能性もあります。
また、法令違反が公表されることで、取引先やオーナーからの信頼を大きく損なうことにもなりかねません。
「知らなかった」では済まされない時代です。 法令遵守を徹底し、安心・信頼される管理会社を目指しましょう。
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