売却査定依頼で特に増加が目立つ“特定の理由”とは? 不動産売却の調査結果を解説
LIFULL HOME’S総研の中山です。
不動産ポータルサイトであるLIFULL HOME’Sでは、物件を売る・買う、貸す・借りるという日常の不動産流通に関わる物件情報を多数掲載しています。
住宅は、買うより売るほうが数倍難しく時間もかかると言われるように、「どうやって売ったらよいかわからない」「近くの不動産会社に相談したら相場価格に比べてあまりにも安くて(または高くて)信用できない」「住宅の売却自体が不安で任せるのが怖い」などのユーザーからの声を受けて“不動産売却査定サービス”を運営しています。
今回は、LIFULL HOME'Sが実施したアンケート調査から、売却査定依頼の「理由」について詳しく紹介します。
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売却査定依頼は5年の間に4倍強まで急増。高齢化に伴う家じまいや相続関連が主な要因
LIFULL HOME'Sの不動産売却査定サービスでは、査定先の不動産会社の情報を詳しく表示したり、個人情報を保護するために高度なセキュリティを導入したり、売却のためのノウハウを共有したりしながら、数多くのユーザーの住宅売却をサポートしてきました。
査定を依頼されるユーザーに対してお願いしているアンケート調査の結果を確認すると、特にコロナ禍以降住宅価格が明らかに上昇し始めてから、“ある変化”が起こっていることに気付きます。
そもそも2019年のコロナ禍前と比較して、2024年には売却査定の依頼件数自体が431%と4倍強にまで膨れ上がっており、核家族化が進んで身の回りに住宅の売買について相談できる人がいない、親の介護のために資金が必要で実家を早急に売却したい、住宅価格が上昇しているこのタイミングを活用して良いタイミングで売却し手元資金化したい、などポジティブ・ネガティブ相半ばするご要望がそれぞれ増加している状況です。
売却査定依頼理由のトップは“相続”の23.1% “買い替え”や“家じまい”が続く
このうち、最も多い査定依頼の理由は“相続”でした。2025年1~3月には23.1%、2024年年間では23.3%に達していますから、査定依頼の約4件に1件は相続によって取得した住宅・マンションなどを売却したいという“家じまい”関連です。
また、現所有者が高齢であることを理由とした“家じまい予備軍”の依頼も近年12%前後に拡大していますから、相続が発生する前後で、親の介護や家財道具の整理など、取り掛からなければならない問題がいくつも存在している状況が浮かび上がります。もちろん、親と同居していれば直ちに売却ということにはなり得ないはずですから、核家族化して親世帯と別々に居住することが当たり前になった時代特有の理由と見ることができます。
売却査定依頼の理由。LIFULL HOME'S不動産売却査定の依頼理由を調査
“買い替え”はコロナ禍で縮小も徐々に回復・拡大傾向
さらに、比較的ポジティブな理由として住み替え先未定な状況での“買い替え”が20.2%(2024年年間では18.3%)に達しています。コロナ禍前の2019年には24.7%と最も多かった理由ですが、コロナ禍で一旦縮小し、徐々に回復・拡大してきました。
やはり住宅価格の高騰を受けて高く売却できそうなタイミングであることから、ライフステージに合った住宅に住み替えたいというニーズが顕在化しているようです。コロナ禍では移動制限もあって、事実上売りたくても売れない状況が続きましたから、コロナ明けに滞留していた住み替えニーズが拡大してきたものと考えられます。
住み替え先決定後の“買い替え”は6%超ほど
ちなみに、住み替え先が決まった状況での“買い替え”は例年6%超と比較的少なく、やはり売って(手元資金化して)から予算に合わせて住み替え先をじっくり探したいと考えるユーザーのほうが多いようです。
もちろん住み替え先を決めてから現在の住まいを売却しても一向に問題はないのですが、転居までに希望価格で売れないとか、そもそも買い手がなかなか現れてくれず価格を下げるよう不動産会社から打診されたとか、売却時の心理的な負荷がやや高くなることも想定されます。その際は“買い替え特約”をうまく活用して売却と購入のタイミングをなるべく近づけることもポイントです。
“金銭的理由”による売却割合が増加傾向
そして、今回のコラムのテーマである特にシェア拡大が顕著な“特定の理由”、それは“金銭的理由”です。2025年1~3月には9.6%で、2024年は年間でも9.3%、最もシェアが少なかった2021年の7.8%から2ポイント程度拡大し、“離婚”を逆転して売却査定依頼の主要因の一つにもなっています。
金銭的理由が拡大している要因は、言うまでもなく住宅価格の高騰および住宅ローン金利の上昇にあります。背景には購入予定者の想定よりも高額の借り入れが可能との金融機関および保証会社の審査があり、さらには生涯で何度も購入するものでもないことから限度額まで借り入れて購入するユーザーの存在があります。
そのような家計では必然的に可処分所得が圧迫され、予期せぬ出費が続けば家計が収入以上の支出を抱えることとなって“借金体質”に陥るケースが増えてしまうのです。
世帯年収の4倍を超える住宅ローン利用者が6割以上
LIFULL HOME'Sが実施した「住宅ローンに関する意識調査」(※)でも、世帯年収の4倍を超える住宅ローンを組んだ割合が63.2%に達し、9倍以上のローンを組んだユーザーも3.7%いることから、厳しい返済計画で住宅ローン返済に臨む家計が少なくないことが明らかです。
住宅ローンの世帯年収倍率 LIFULL HOME'S住宅ローンに関する意識調査
また、世帯月収に占める住宅ローン返済額が30%を超える家計では“もっと借入額を減らせばよかった”と回答した割合が28.3%に達しており、多額の住宅ローンを抱えた家計が経済的に厳しい状況に置かれていることも分かります。
住宅ローン返済額の割合別に借入額に対する意識 LIFULL HOME'S住宅ローンに関する意識調査
今後、住宅ローン金利がさらに上昇することが懸念されていますから、実際に上昇し始めると、変動金利で借り入れたユーザーの中から、住宅ローンを維持することが難しいなどの“金銭的理由”で売却査定を依頼するユーザーの割合が、さらに拡大することでしょう。
これから住宅ローンを組んで購入することを検討しているユーザーは、当初からボーナス併用返済をしないとか、余剰資金ができた際に積極的に繰り上げ返済に充てるとか、返済総額が少なくなる元金均等払いにするとか、預金することによって金利を安定化できる預金連動型住宅ローンを選ぶ、などの“金利上昇対策”をぜひセットで考慮してもらいたいものです。
参考:
「金銭的理由」での不動産売却査定依頼が確実に増加
(※)住宅購入者と購入検討者に『住宅ローンに関する意識調査』 をLIFULL HOME'Sが実施
●LIFULL HOME'S総合研究所 中山 登志朗の執筆記事
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