外国人の不動産売買に関する規制は? 売買取引業務の流れや対応方法を解説
日本では外国人による不動産購入に大きな制限はなく、外国人であっても日本人と同様に土地・建物を購入できます。近年は、投資やセカンドハウス取得を目的とした外国人からの不動産需要が増加傾向にあります。
外国人を顧客とする不動産売買が増えると、言語や文化の違いによるトラブルのリスクが高まるため、不動産会社には適切な対応が求められます。本記事では、外国人との売買取引の流れや対応方法、関連する法律の動向について解説します。
目次[非表示]
外国人に日本の不動産購入を禁止する規制はない
現行制度において、日本では外国人による不動産購入に大きな制限や規制はありません。日本人と同様に、外国人も日本国内の土地・建物を購入できます。
国際的には、外国人の不動産購入を禁止・制限する国が少なくありません。つまり、外国人による不動産取引について、日本は世界的に見ても珍しい状況です。
実際に、日本では居住目的だけでなく、投資やセカンドハウスの取得目的でも外国人からの不動産需要が増えています。
外国人相手の売買取引業務の流れ
国土交通省の資料では、外国人相手の売買取引業務の流れは、以下のように示されています。
1.外国人物件購入希望者が、購入したい物件の条件(立地や予算など)を決める
2.不動産会社が希望に合う物件を特定し、購入希望者に提示する
3.外国人物件購入希望者が、対象物件の状態や周辺環境などを確認する(不動産会社が立ち会うこともある)
4.購入物件を決定した場合、外国人物件購入希望者が「買付証明書」を作成する(このタイミングで手付金を支払う場合もある)
5.不動産会社が購入希望者の在留資格や物件購入代金の支払い能力などを審査する
6.不動産会社が宅地建物取引業法に基づき、重要事項説明を行う
7.外国人買主と売主が契約を締結する
8.外国人買主と売主間で売買代金の決済と物件の引渡しが行われる
9.外国人買主が入居する(賃貸運用を希望する場合は、この後に賃貸管理契約の締結を行う)
参考:国土交通省土地・建設産業局国際課「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」
売買交渉の段階で、不動産の所有者に課せられる税金、物件取得後の外為法の届出について説明するのが望ましいとされています。
不動産事業者のための国際対応実務マニュアル不動産取引の流れ
出典:国土交通省土地・建設産業局国際課「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」
不動産会社が知っておくべき対応ポイント
外国人が取引相手となる場合、言語や文化の違いが円滑な取引を妨げたり、トラブルに発展したりする可能性があります。不動産会社に求められる、外国人の対応方法を確認しましょう。
買主が外国人でも日本の宅地建物取引業法が適用される
外国人が取引の主体となる場合でも、日本人と同様に宅地建物取引業法の順守が求められます。重要事項説明書や契約書は、日本語版が正本となります。
外国語訳された重要事項説明書や契約書は参考資料として提供可能ですが、法的効力を持つのはあくまでも日本語版です。また、トラブルに備えて、専属的合意管轄裁判所は日本の裁判所とすることが望ましいでしょう。
通訳は買主に用意してもらう
認識の齟齬を防ぐために、通訳の介在は効果的です。不動産会社は通訳費用を負担する義務はなく、通訳の手配は原則として買主側の責任です。
不動産会社が通訳を用意する場合もありますが、この場合は通訳の質・説明の正確さに関する責任は不動産会社が負います。そのため、買主側が通訳者を手配し、その通訳者の通訳内容が正確で理解可能であることを買主自身が保証するのが一般的です。
通訳を介して契約を結ぶ際には、通訳者にも重要事項説明書や売買契約書に署名・押印を依頼しましょう。
不動産事業者のための国際対応実務マニュアル通訳を介した契約
出典:国土交通省土地・建設産業局国際課「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」
参考:不動産流通推進センター 外国人に不動産を売る場合の契約方法
購入前に物件の内覧を推奨する
購入後のミスマッチを防ぐためにも、購入前に物件の内覧を促しましょう。具体的には、最寄り駅からの距離や周辺環境などの実地確認を行います。
内覧を通じて、写真や動画だけではわからない物件の実情を理解してもらえます。必要に応じて不動産会社の担当者が内覧に立ち会い、詳細な説明をするとよいでしょう。
やり取りの記録を残しておく
言語や文化の違いから解釈の相違が起こる可能性があるため、やり取りの履歴を記録する必要があります。メール・電話・面談など、すべてのやり取りを記録しましょう。
Web面談をする場合は、録画保存も効果的です。記録を残すことで、意思疎通を円滑にしつつ、言語・文化の違いによるトラブルを未然に防げます。
身元確認をきちんと行う
国土交通省の資料によると、以下の書類を通じて身元確認を行うことが求められています。
・パスポート
・在留カード
・特別永住者証明書
・個人番号カード
・住民基本台帳カードなど
参考:国土交通省土地・建設産業局国際課「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」
なお、身元確認は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づく義務です。不動産売買取引における取引時、または代理・媒介を行う際に身元確認を行うのが一般的です。
厳密な身元確認を行うことで、取引の透明性が向上する効果に加えて、マネーロンダリングやなりすましを防止できます。また、テロ資金供与などの違法行為の抑止にもつながるため、治安維持の観点からも重要な義務だといえるでしょう。
不動産事業者のための国際対応実務マニュアル 売買取引時における確認の実施
出典:国土交通省土地・建設産業局国際課「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」
外国人の不動産購入に関連する法律
2022年9月20日に施行された「重要土地等調査規制法」は、重要施設や国境離島の機能阻害行為の防止を目的とした法律です。
防衛関係施設周辺や国境離島など、安全保障上重要な地域における土地の所有や利用状況を調査・把握したうえで、必要に応じて利用の制限や届出義務を課しています。
加えて、2023年5月に、国民民主党が「総合的安全保障上の土地取得規制法案(外国人土地取得規制法案)」を提出しました。これは、外国人による土地取得に関して、より包括的かつ強化された規制を求める法案です。
政府に対して土地取得の実態調査と計画策定、土地取得問題に対応する組織の設置を義務づけ、建物や水源地など、国土保全に重要な土地も規制対象に加える内容となっています。
「総合的安全保障上の土地取得規制法案」はまだ成立していないものの、成立すれば外国人との不動産取引の制限が厳しくなる可能性があります。不動産会社が対象エリアの物件を扱うにあたり、売買契約に伴う報告義務や説明責任など、業務上の負担が重くなると考えられるでしょう。
内閣府 重要土地等調査法の概要
出典:内閣府 重要土地等調査法
日本の不動産市場への影響
今後も、日本の不動産市場において、外国人の買主が増える可能性があります。日本の不動産を購入する外国人が増えると、不動産市場や地域にどのような影響が出るのか確認しましょう。
不動産価格が高騰する
東京都心部における新築マンションの平均価格は、2年連続で1億円を超えました。原材料価格や人件費の高騰のほか、外国人買主の増加による需要増が、価格高騰の要因の一つと指摘されています。
不動産価格が高騰すると、日本人の住宅取得が困難になるのではという懸念があります。新築の購入を諦めざるを得ない人が増えると、相対的に安い中古物件や賃貸物件の需要増につながり、中古物件価格の高騰や家賃の上昇傾向も見られています。
地域社会で治安の悪化が懸念される
外国人の居住者が増えると、言語・文化の違いによるコミュニケーションの問題や、文化・生活習慣の相違による地域トラブルが起こり得ます。外国人の居住者がごみ捨てのルールを理解できず、トラブルに発展するケースが代表例です。
また、投資や別荘取得が主な購入目的となる地域では、空き家の増加によって防犯上の問題が生じる可能性や、地域活性化が阻害される可能性があります。
外国人対応可能な不動産会社が増える
外国人の市場参加者が増えると、外国人にも対応できる不動産会社の需要が高まります。外国人相手の取引実績が豊富だと、外国人からの信頼を得やすくなるでしょう。
不動産会社としては、現行法や国土交通省が示すマニュアルを順守しつつ、今後の法改正の動向を注視する必要があります。外国人との取引を行っていき、専門知識とノウハウを蓄積することにより、競争優位性を築くことも可能です。
首都圏では新築マンションの価格高騰に伴い、中古マンション価格も上昇しています。LIFULL HOME'Sは中古マンションの価格上昇について調査を実施しました。東京23区の駅別中古マンション上昇率ランキング
参考:東京23区内の駅別中古マンション価格上昇率をLIFULL HOME'Sが調査
まとめ
外国人による不動産購入は現在制限がないものの、重要土地等調査規制法の施行や外国人土地取得規制法案の提出など、規制強化の動きが見られます。
外国人買主の増加は不動産価格高騰や地域トラブルといった課題をもたらす一方、対応可能な不動産会社にとってはビジネス機会となります。
不動産会社は現行法や国土交通省のマニュアルの順守はもちろん、法改正の動向を注視し、専門知識とノウハウを蓄積しながら競争優位性を築きましょう。
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