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2025年度賃貸不動産経営管理士試験に見る「実務で求められる法的判断力」

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2025年11月に実施された賃貸不動産経営管理士試験は、例年以上に“実務での法的判断力”が問われる内容となりました。試験は年々難度が高まっていますが、単に資格取得のハードルが上がっているという話ではありません。

管理会社として、法制度の理解をどこまで深めるべきか、何を社員教育に落とし込むべきかという「業界全体へのメッセージ」と受け取るべき出題が多く見られました。

本稿では、特に管理実務との関連が深い「成年後見」と「相隣関係」を中心に試験問題を取り上げ、制度趣旨や業務上のリスクを踏まえて解説します。

成年後見制度の出題が意味するもの~高齢オーナー対応における“契約の有効性”が問われています~

賃試験の冒頭で出題されたのが以下の問題です。

【問1】成年後見に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

  1. 成年被後見人である賃貸人が賃貸借契約を締結した場合において、締結時に賃貸人の判断能力が回復していたとしても、家庭裁判所により後見開始の審判が取り消されていなければ、成年後見人は、賃貸人本人が3か月前に締結した賃貸借契約を取り消すことができる。
  2. 賃貸人が意思無能力の場合、賃借人が賃貸借契約の解除の意思表示をするために必要なときは、賃借人は、利害関係人として、家庭裁判所に賃貸人の後見開始の審判を請求することができる。
  3. 成年被後見人である賃貸人が、契約期間を2年とする定期建物賃貸借契約を締結しようとするときは、成年後見人の同意を得て、賃貸人本人が賃貸借契約を締結することができる。
  4. 賃貸人の後見開始の審判がなされたときは、成年後見人は、その審判を理由として、存続中の賃貸借契約を取り消すことができる。

正解:1

成年後見制度は、これまで管理士試験でも基本知識が問われる程度でした。しかし今年は、条文の文言と趣旨を正確に理解していなければ判断できない構造になっていました。この背景には、実務で頻発している 「高齢オーナーの意思能力をめぐるトラブル」 があると考えられます。

後見開始後の法律行為は「取り消し得る」

民法9条は、成年被後見人が行った法律行為について、原則として後見人が取り消すことができると定めています。しかも、契約締結時に本人の判断能力が一時的に回復していたかどうかは関係ありません。

つまり管理会社としては、

  • 賃貸借契約の更新手続
  • 家賃改定の同意
  • 修繕契約の締結
  • 相続・売却に伴う契約手続

これらを“本人と話ができるから大丈夫”と判断することは極めて危険です。契約が遡って取り消されれば、管理会社がオーナー・入居者双方から責任を追及される可能性があります。

成年後見人・保佐人・補助人の把握は管理の基本へ

今回の出題は、管理会社に対し、「契約の相手方の法律行為能力を確認しないと、管理業務は成立しない」という強いメッセージを含んでいるように思われます。

今後は、

  • 後見登記事項証明書の取得
  • 親族・専門職後見人との情報連携
  • 契約手続の標準化(記録の残し方)

が管理会社のコンプライアンスとして必須になっていきます。

相隣関係の出題が示す「クレーム対応力」の重要性~隣地との越境、ライフラインの越境は法的説明が不可欠です~

次に注目したいのが以下の問題です。

【問27】相隣関係に関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。

ア:土地の所有者は、境界付近における建物の修繕のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。

イ:土地の所有者は、他の土地に設備を設置しなければガスの供給を受けることができないときは、ガスの供給を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置することができる。

ウ:隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、急迫の事情がある場合であっても、竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないときでなければ、土地所有者は、自ら越境した枝を切除することができない。

エ:隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、竹木の所有者に根を切除するよう催告し、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないときでなければ、土地所有者は、自ら越境した根を切除することができない。

  1. ア、イ
  2. ア、エ
  3. イ、ウ
  4. ウ、エ

正解:1(ア・イ)

2023年の民法改正により、相隣関係のルールは明確化されました。しかし現場では、依然として「昔の常識」が残っており、トラブルが長期化するケースが少なくありません。

越境枝と越境根の取り扱い(民法233条)

今回の出題では、枝と根の扱いが問われました。

  • 枝: 急迫の事情があれば、催告なしで切除可能
  • 根: 常に催告なしで切除可能

というのが現行法のルールです。
ところが現場では、

  • 「必ず隣地所有者に依頼しなければ切れないのでは」
  • 「勝手に切ったら損害賠償になるのでは」

という誤解が多く見られます。管理会社が正確に説明できなければ「やる・やらない」で感情的対立が生まれ、クレームが激化することがあります。

改正民法は、隣地関係の紛争を防ぐために明確化されたものであり、管理会社にはこの趣旨を踏まえた説明が求められます。

ライフライン設備の越境(民法220条)

水道・電気・ガス・通信などのライフライン設備が隣地を通る場面は珍しくありません。改正後の民法220条は、生活維持の観点から“必要な範囲での設備設置”を認める方向へ条文を整理しています。

管理会社としては、

  • 設備工事の立入りの法的根拠
  • 隣地所有者の協力義務
  • 後日の補償の基本的考え方

を適切に説明することで、不要なトラブルを回避できます。

賃貸住宅管理業法への理解も業界必須に~今年は「法令の文理解釈力」が強く求められた~

今年の試験では、賃貸住宅管理業法に関する問題(登録、業務管理者、定期報告など)も例年以上に細かい点が問われました。

管理会社が法定業務を遵守していない場合、

  • 業務停止
  • 登録取消
  • 指導・行政処分

につながる可能性があるため、今回の出題は「実務のコンプライアンス」も重視した傾向とも読めます。

特に、

  • 登録事項変更の30日以内の届出
  • 更新申請は「90日前から30日前」
  • 標識掲示義務
  • 再委託禁止(全部は不可・一部のみ可)

などは業務監査でもよく確認される項目です。社員教育としても、条文の文言を正確に理解する力が求められる時代に入っています。

まとめ~「法制度の理解」が必要

2025年度の試験は、賃貸業界及び受験生に向けて次の3つの方向性を示したといえます。

①高齢オーナー対応への備えを

2年連続で、制限行為能力制度について出題したということは、成年後見制度の理解は、今後の管理業界における必須スキルになり得るということだと思います。もちろん、試験対策的にもしっかりと制度を暗記しておく必要があります。

②相隣関係・越境問題等の物権法の理解

2023年の民法改正を踏まえた民法物権法の理解が必要となります。これまで出題されたことがなかった民法物権法の出題が2問もあったことから、今後は、相隣関係だけでなく、共有、物権変動についての理解も必須となるでしょう。

③管理業法は“読むだけ”では不十分で法解釈力が必要

賃貸住宅管理業法からの出題数は減りましたが、個数問題が増えたり、ガイドラインに記載されている詳細な知識を問うものが増えたり、難易度は高くなっています。また、これまでよく出題されていた標準契約書の問題が減り、業法についても実務的な問題ではなく、法解釈を求める法律的な問題に変化しているものといえます。

業法の理解は、賃貸管理業の理解そのものであり、業界的にも重視される内容といえます。

KENビジネススクール 田中嵩二
KENビジネススクール 田中嵩二
株式会社KENビジネススクール代表取締役社長、明海大学不動産学部 講師 1971年生まれ。中央大学大学院法学研究科を修了後に高校教諭をしながら、大手資格予備校で宅建・公認会計士等の講師を兼任。2003年にKENビジネススクールを設立し、同社は国土交通大臣指定の宅建登録講習(5点免除講習)・宅建登録実務講習(合格後の実務研修)の実施機関に認定され、現在は、全国で宅建・賃貸不動産経営管理士・投資不動産販売員等の講座を実施している。 個人としては、「これで合格宅建士シリーズ」「これで合格賃貸不動産経営管理士シリーズ」「楽学賃管士1問1答+予想模試」等の書籍を執筆(40冊以上出版)。また、2025年度から明海大学不動産学部で不動産取引に関する科目について講義を担当。 全国賃貸住宅新聞及びAllabout、楽待不動産投資新聞等のネット記事で宅建士・賃貸不動産経営管理士・不動産投資に関する記事を連載中。 宅建及び賃貸不動産経営管理士、投資不動産販売員の企業研修講師を担当し、某大手不動産販売会社で3年連続100%合格率を達成。

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