原状回復費用のルールと借主負担になるケース・ならないケース
原状回復に関する問題は、賃貸物件でよくあるトラブルの代表例です。トラブルを避けるためには、賃貸物件の借主・貸主の双方が、原状回復に関する基本的なルールを理解しておくことが望ましいといえます。
国土交通省では、退去時における原状回復のトラブルを未然に防ぐために、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しています。今回はガイドラインの内容をもとに、優先的に押さえておきたいルールを確認しておきましょう。
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目次[非表示]
- 1.原状回復の基本的な考え方
- 2.原状回復費用が借主負担になるケース・ならないケース
- 2.1.借主負担になるケース
- 2.2.借主負担にならないケース
- 3.原状回復特約とは
- 4.原状回復でよくあるトラブル事例と対処法
- 4.1.借主にクリーニング費用の負担を拒否される
- 4.2.借主に毀損箇所の指摘をしたいが証拠がない
- 4.3.貸主から過剰請求されてしまった
原状回復の基本的な考え方
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、原状回復とは以下の行為を指すとされています。
原状回復の定義 |
(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)
ここではまず、原状回復の基本的な考え方について見ていきましょう。
単に「元に戻す」ということではない
原状回復という言葉から、賃貸物件の借主が退去する際には、入居したときの状態に戻さなければならないという誤解を抱く方もいるかもしれません。しかし、ガイドラインでは判例や学説に基づき、通常の住み方や使い方をしていて発生する経年劣化や通常の損耗については、原状回復の対象ではないとされています。
そのため、基本的には「どこまでが通常の使用の範囲に含まれるのか」という点が重要なポイントになってくるということです。
故意や過失による劣化を回復することを意味する
「通常の使用を超える」という表現は、端的にまとめれば借主の故意や過失によるものと言い換えることもできます。具体的なケースは後述しますが、たとえば「ペット不可の物件で猫を飼育し、柱に爪痕がついた」という場合は、明らかに通常の使用を超えていると判断できます。
この場合は、当然ながら借主に原状回復費用を負担する義務が生じます。一方、畳の変色やフローリングの色落ちは、通常の生活でも生じるものであり、借主側の責任はないものと考えられています。
補修可能な最低限度を施工単位とする
原状回復費用が生じるとき、「補修工事が最低限可能な施工単位」に切り分ける必要があります。たとえば、故意や過失によって壁紙の交換が必要になった場合は、基本的には平米単位で費用負担をするのが望ましいといえるでしょう。
しかし、現実的には少なくとも1面は丸ごと交換しないと仕上がりが不自然になるため、「1面分までは張り替え費用を借主負担としてもやむを得ないとする」とされています。そのうえで、壁紙は6年で残存価値が1円になると想定されていることから、経過年数にも注意が必要です。
このように、壁紙一つとっても判断は複雑であるため、ガイドラインには注意深く目を通しておくことが大切です。
原状回復費用が借主負担になるケース・ならないケース
ここでは、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参照し、具体的に借主の負担になるケースとならないケースを確認しておきましょう。
借主負担になるケース
借主負担になるものとしては、次のようなケースが挙げられます。
借主負担となる原状回復費用
管理の悪さによって発生・拡大したと考えられるもの
|
(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)
借主負担にならないケース
一方、次のようなものは借主の負担にならないとされています。
借主負担とならない原状回復費用
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(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)
上記のように、同じ状態であっても、原因によって負担者が変わる可能性があるため、両者の違いを的確に把握しておくことが大切です。
原状回復特約とは
賃貸借契約においては、強行法規(借地借家法や消費者契約法)などに反しなければ、貸主と借主の合意によって特約を設けることも可能とされています。特約により、一定の範囲内であれば、本来貸主が負担すべき経年劣化や通常損耗による修繕も、借主に負担してもらうことが可能となります。
しかし、特約を設ける際には次のような要件を満たさなければならないので、設定する際には注意が必要です。
原状回復特約を設ける際の要件
|
(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)
借主がきちんと特約の意味と内容を理解しており、合意している状態でなければ無効になるため、契約時にきちんと説明をする必要があります。また、特約の内容は客観的で合理的なものである必要があり、その内容も正当な範囲内に留めなければなりません。
原状回復でよくあるトラブル事例と対処法
最後に、原状回復でありがちなトラブル事例を対処法と併せていくつかご紹介します。
借主にクリーニング費用の負担を拒否される
これまで見てきたように、原状回復の範囲と考えられる毀損については、一定の負担額を借主に請求することが可能です。ただし、クリーニング費用については必ずしも通常の使用の範囲を超えているとは言い切れないため、負担を拒否されたとしても強く支払いを求めることは難しいといえます。
この場合は、合理的な範囲でクリーニング費用特約を設けたうえで、契約時にきちんと説明し、内容や費用について借主の合意を得ておくことが必要だったと考えられるでしょう。
借主に毀損箇所の指摘をしたいが証拠がない
貸主側から見れば、借主に原状回復費用を請求したところ、「入居前からもともと壊れていた」と主張され、負担に応じてもらえないというリスクも想定されます。こうしたトラブルを避けるためには、あらかじめ貸し出す前の状況を写真や映像などで記録しておき、きちんとデータを保管することも重要です。
貸主から過剰請求されてしまった
借主側から見たトラブル事例としては、貸主から原状回復費用を過剰に請求されてしまうというケースもあります。国土交通省のガイドラインによれば、「貸主は原状回復費用について説明義務があり、借主は明細を請求して説明を求めることができる」とされています。
ただし、具体的な原状回復費用の度合いについては、個別の状況によっても異なるので、ガイドラインを参照して判断することが重要です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:原状回復とは?
A:国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反などによって生じた損耗・毀損を復旧することとされています。単に元に戻すのではなく、基本的には借主故意・過失による劣化を回復することを指していると考えられます。
Q:原状回復で借主の負担になるケースは?
A:借主の故意・過失による毀損、適切に管理されていれば防げたはずの毀損などが対象となります。個別の具体例については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも紹介されています。
Q:原状回復で起こりがちなトラブルとは?
A:借主にクリーニング費用の負担を拒否されたり、毀損箇所の指摘をしたい場合に証拠がなかったりするケースが挙げられます。契約時の取り決めを精査し、物件を貸し出す前の状況を記録に残しておくなどの対策を事前に行い、トラブルを未然に防ぐことが重要です。
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