大地震の前ぶれ? 千葉県東方沖で発生したスロースリップについて解説
スロースリップとは、地中にあるプレートの境界が、時間をかけてゆっくりとずれる動きのことです。地震発生と深く関係しているともいわれ、実際に2024年の千葉県東方沖では、スロースリップが観測された後に地震が発生しています。
築年数が古い建物を管理している管理会社の方は、地震発生のリスクを見通すうえで、スロースリップにも注目してみることをおすすめします。
本記事では、スロースリップと地震の関係や、管理会社が備えておくべき地震対策について解説します。
目次[非表示]
- 1.スロースリップとは
- 1.1.2024年2月に千葉県東方沖で発生
- 1.2.過去のスロースリップと地震発生状況
- 1.3.南海トラフ地震との関連性
- 2.管理会社にできる地震対策
- 3.まとめ
スロースリップとは
スロースリップは「ゆっくりすべり」とも呼ばれ、地中にあるプレートの境界がゆっくりと滑る動きを指します。
一般的な地震は、1秒間に約1メートルの速さでプレートが滑り、その結果として地震波を発生させます。これに対しスロースリップは、地震の約10万分の1から100万分の1ほどの非常にゆっくりとした速さで滑るため、地震波を発生させることはほとんどありません。
地震とスロースリップは、どちらもプレートが滑る動きを意味するものですが、地震波の発生の有無という点ではまったく異なる現象なのです。
気象庁より。想定震源域、深部低周波地震(微動)、長期的ゆっくりすべり、短期的ゆっくりすべりの発生領域。オレンジ色の領域は長期的ゆっくりすべりの発生領域、青色の点は深部低周波地震(微動)の震央
(出典:気象庁 「長期的ゆっくりすべり」、「短期的ゆっくりすべり」、「深部低周波地震(微動)」)
2024年2月に千葉県東方沖で発生
現在の研究では、スロースリップと地震は互いに影響し合っていると考えられています。2つの関連性をうかがえる現象が、2024年2月から3月にかけて千葉県東方沖で発生しました。
まず、2024年2月26日ごろから、千葉県東方沖で、スロースリップと思われる地殻変動が検出されるようになりました。2月28日には最大2cmの滑りがあったと推定され、3月1日にマグニチュード5.2の地震が発生し、千葉県と埼玉県では最大震度4の揺れを観測しています。
千葉県東方沖では、1996年から2018年にかけて6回のスロースリップが観測され、ほぼ同じタイミングで地震も発生しています。
2018年6月に観測された房総半島沖周辺の地震の震源分布(震度1以上が観測された地震)
(出典:気になる地震、スロースリップ(地震調査研究推進本部))
過去のスロースリップと地震発生状況
ほかの地域でも、スロースリップと地震発生の関連性をうかがわせる現象が起きています。
2011年の東日本大震災を引き起こした、東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)では、本震の前にスロースリップが発生していたことがわかっています。
さらに、2014年チリ北部地震(マグニチュード8.2)や、2016年の熊本地震(マグニチュード7.0)といった大きな地震の前にも、スロースリップに似た現象が震源の近くで起きています。
南海トラフ地震との関連性
南海トラフとは、静岡県の駿河湾から宮崎県日向灘沖にかけての溝状の海底地形を指し、そこで100年から150年周期で繰り返し発生している大規模な地震を南海トラフ地震と呼びます。前回の発生から70年以上が経過しており、近い将来にまた発生するのではないかと懸念されています。
この南海トラフ地震の発生が想定される地域でも、スロースリップと地震発生の関連性をうかがわせる現象が起きています。2016年4月1日に、南海トラフにある三重県南東沖で発生した地震(マグニチュード6.5)では、付近のプレート境界でスロースリップが観測されました。
さらに、南海トラフに沿うように、スロースリップの一種である長期的スロースリップが発生しているとの調査結果もあります。こうした現象から、現在は「スロースリップと南海トラフ地震は高い関連性がある」とする見方が多くなっています。
気象庁では、スロースリップが南海トラフ地震の発生に関連するとして、南海トラフ地震臨時情報で発表する情報の一つにスロースリップを含め、注視しています。
南海トラフ巨大地震の震度分布(強震動生成域を陸側寄りに設定した場合)
(出典:気象庁 南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ)
管理会社にできる地震対策
地震が非常に多い日本では、スロースリップが発生している地域はもちろん、そのほかの地域においても地震対策を行っておくべきでしょう。ここでは、不動産管理会社にできる地震対策について紹介します。
社内の備え
地震発生時に、速やかに社員や管理物件のオーナー、入居者の安否確認を行えるように、緊急連絡先をしっかり把握しておきましょう。
さらに、地震が発生した場合には誰がどのタイミングで連絡を取るかをあらかじめ決めておくと、スムーズな安否確認ができます。
また、管理物件のオーナーや入居者と締結した契約書などの重要書類を電子化して保存しておくことも地震対策になります。電子化した書類をクラウドサービスにアップロードしておけば、地震によって会社の建物が倒壊したり火災に見舞われたりしても、後日内容を確認できるため安心です。
さらに、多くのクラウドサービスがスマホやタブレットからアクセス可能なため、避難先などの遠隔地からでもデータの確認ができ、業務を継続するうえで大いに役立つはずです。
オフィス家具類の固定、特に書類が多く入ったキャビネットは注意。避難場所や避難経路の確保などオフィス内の防災対策も進めましょう
(出典:東京都 オフィス家具類転倒防止対策)
耐震診断を行う
管理物件のなかに、旧耐震基準に則って建てられた建物がある場合は、早急に耐震診断を受けるようにしましょう。
旧耐震基準とは、1981年(昭和56年)5月31日まで使われていた、建物の耐震性に対する基準です。現行の新耐震基準では震度6強〜7程度の地震でも建物が倒壊しないレベルの耐震性能が求められますが、旧耐震基準ではこのレベルは求められていませんでした。
そのため、旧耐震基準の建物は、大規模な地震が発生した際に深刻な被害を受ける可能性があるのです。早急に専門家による耐震診断を受け、建物の耐震性能を確認し、不十分な場合は耐震改修工事などの対策を検討しましょう。
参考:国土交通省 住宅・建築物の耐震化に関する支援制度の一覧
耐震改修工事を行う
耐震診断の結果、管理する建物の耐震性不足が判明した場合は、耐震改修工事の実施をおすすめします。耐震改修工事では、建築士が地震の揺れに弱い部分の補強計画を立案し、専門業者による補強工事が行われます。
自治体によっては、耐震改修工事に対する補助制度などを設けているところもあります。建物のある自治体で補助制度などが実施されている場合、条件に当てはまれば費用を抑えながら建物の耐震性を高めることが可能です。
耐震性が劣る建物であったために地震発生時に借主に被害が及んだ場合、オーナーがその責任を問われる可能性があります。耐震性の不足している建物のオーナーには、早急な耐震改修工事を促しましょう。
耐震診断、耐震補強工事などの補助を自治体で行っている場合もあります
まとめ
スロースリップとは、プレートの境界がゆっくりとずれていく動きのことです。
2024年には、千葉県東方沖でスロースリップの発生が観測された後、マグニチュード5.2の地震が発生しました。また、過去にもスロースリップの発生と前後して地震が発生した例があり、スロースリップと地震との強い関連性が指摘されています。
現在、関心が高まっている南海トラフ地震の発生想定地域でも、スロースリップの発生が数多く見られます。地震の発生を予測する一つの基準として、スロースリップへの関心はますます高まっているのです。
ただし、地震はいつどこで発生するかわかりません。南海トラフ周辺やスロースリップが発生している地域だけでなく、日本のすべての地域で地震に対する備えが必要です。
不動産管理会社においては、社員や契約者の連絡先の把握や情報の電子化に加え、管理物件の耐震診断や耐震改修工事を積極的に行い、大地震に備えましょう。
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