賃貸管理のトラブル事例と対処法|未然に防ぐための実践ガイド
賃貸管理の現場では、日々さまざまなトラブルが発生します。設備の故障や入居者同士の生活マナーをめぐるクレーム、家賃の滞納、さらには退去時の原状回復費用をめぐるトラブルまで、内容は多岐にわたります。
こうしたトラブルに対し、適切な初動対応と契約や法律に基づいた処理を行うことは、入居者とオーナーからの信頼を維持するために重要です。
本記事では、賃貸管理の現場で見られる典型的なトラブル事例を整理したうえで、適切な対処法と効果的な予防策を解説します。賃貸管理業務の質を高め、トラブルの長期化や入居率の低下を防ぐために、ぜひご活用ください。
目次[非表示]
- 1.賃貸管理の典型的なトラブル事例
- 1.1.設備・建物に関するトラブル
- 1.2.生活マナー・入居者間のトラブル
- 1.3.家賃の滞納・契約違反トラブル
- 1.4.退去・原状回復をめぐるトラブル
- 2.賃貸管理上のトラブルが発生したときの対処法
- 3.賃貸管理のトラブルを未然に防ぐ対策
- 4.まとめ
賃貸管理の典型的なトラブル事例
はじめに、賃貸管理における典型的なトラブル事例を紹介します。
設備・建物に関するトラブル
賃貸物件では、設備や建物に関して次のようなトラブルが発生することがあります。
- エアコンの冷暖房が利かない
- 給湯器のお湯が出ない
- トイレの水が流れない
- 排水口の詰まり
- 天井の雨漏り ・上階からの水漏れ
特に水まわりのトラブルは、緊急性が高く被害が拡大しやすいため、迅速な対応が求められます。
これらトラブルが発生する原因として、経年劣化のほか、入居者の過失や点検不足、設備設置時の施工不良などが考えられます。
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生活マナー・入居者間のトラブル
入居者間の生活スタイルの違いや共用部分の使い方に起因するトラブルとしては、以下のものがあります。
- 隣室・上下階からの騒音
- ペット禁止物件での無断飼育
- ゴミ出しのルールを守らない
- 共用部への私物放置
- 異臭の発生
- 無断駐車
特に、騒音は、入居者のクレームが発生しやすい要因の一つです。
足音や洗濯機の音、話し声、テレビ・オーディオの音など、原因はさまざまですが、音の聞こえ方は人によって異なるため、問題が深刻化することもあります。
トラブルを放置すると入居者同士の感情的対立に発展し、当事者以外の退去にもつながりかねないため、早期かつ適切な対応が不可欠です。
また、外国人入居者を受け入れる場合は、文化や習慣の違いが大きい点にも注意が必要です。
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家賃の滞納・契約違反トラブル
家賃の滞納、無断で契約に反する使用方法をするなどのトラブルは、賃貸経営の収支にも直結する深刻なトラブルです。
- 家賃の支払い遅延・長期滞納
- 無断で他人に又貸し(転貸)する
- 居住目的の部屋を事務所として使用する
- ペット禁止・楽器演奏禁止などに違反する行為
契約違反に関するトラブルの原因として、入居者の契約書・重要事項説明に対する理解不足や生活ルールの周知不足、管理体制の甘さが考えられます。
退去・原状回復をめぐるトラブル
退去時の原状回復や敷金返還に関する争いが生じることもあります。
- 原状回復費用の負担範囲をめぐるトラブル(自然損耗か故意・過失か)
- 敷金が全額返金されないことへの不満
- 修繕費用の見積もりが高すぎる
退去時のトラブルの多くは、入居時の現状回復費用に関する説明不足や入居者の理解不足、入居時点で物件の状態を十分に把握できていないことに起因します。
≫ 原状回復費用のルールと借主負担になるケース・ならないケース
≫ 賃貸物件の東京ルールとは? 賃貸住宅トラブルガイドラインや原状回復ルールを解説
賃貸管理は駐車場や共用部などもトラブルとなる可能性があり、専有部だけでなく、広い範囲の長期的な管理・対応が必要となります
賃貸管理上のトラブルが発生したときの対処法
トラブルが発生した際には、状況に応じた迅速かつ適切な対応が不可欠です。トラブル発生時の状況や緊急性の度合いによって順番が前後することもありますが、基本的な対処法は次のとおりです。
1.現地確認と関係者からのヒアリング
2.契約内容や法律(ガイドライン)に基づいて対応方針を
3.決定入居者・オーナーの双方に対し、事実・経緯と対応方針を説明
4.トラブル対応の実施・修理会社の手配
5.法的対応が必要な場合は外部の専門家に相談
まずは初動対応の迅速さが重要です。対応が遅れるほど感情的なクレームに発展し、ますます状況が悪化していきます。
また、設備の故障や漏水などの場合、経年劣化によって自然発生したものか、入居者の故意・過失によって発生したものかの判断が必要です。原因の所在によって、原状回復費用の分担が変わるためです。
さらに、家賃滞納への支払い督促・契約解除、損害賠償請求など、法的リスクが高い場合は、弁護士などの専門家に相談します。
なお、発生日時・状況・当事者・関係者の主張・対応内容を時系列で記録し、保存しておくことで、将来的に紛争が生じた場合に証拠として活用することができます。
設備トラブルは迅速な対応が求められます。対応マニュアルや体制の整備が大切です
賃貸管理のトラブルを未然に防ぐ対策
それでは、賃貸管理上のトラブルを防止するためには、どういった点に注意すればよいのでしょうか。ここでは3つの対策を紹介します。
トラブル発生を想定した契約内容・説明を徹底する
契約締結時に以下のような点を明確にしておくことで、多くのトラブルを防止できます。
- 収入面だけなく人柄も含めた入居審査
- 禁止事項の明記
- 事例を交えながら具体的に説明
- 契約書とは別にチェックリスト・同意書で再確認
原状回復費用に関する問題は、退去時(出口)ではなく、契約時(入り口)の説明で解決すべきと捉えることが大切です。
国土交通省が、入居時・退去時の部屋の損耗程度を具体的に記録するための「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」を公表しているので、参考にしてみましょう。
また、IT重説の場合は、相手の理解度を把握しにくいため、質疑応答の時間を十分に設けるなど丁寧な対応が求められます。
参照:国土交通省|現状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)
設備・建物の定期点検を実施する
設備や共用部の状態を定期的に点検することで、事故やトラブルを未然に防ぐことができます。
- 給排水設備や屋根・外壁の定期点検
- 共用部分の使用状況の確認
- (ペット可物件では)飼育状況の定期的な調査
- 入居者へのアンケート・ヒアリングの実施
管理委託契約上の点検頻度が低いと考えられる場合は、オーナーに見直しを提案してもよいでしょう。
給湯器の故障や排水管の不良などの対応が遅れ、利用できない期間が長引くと、二次的なクレームに発展するだけでなく、賃料減額や損害賠償請求のリスクもあります。そのため、繁忙期や緊急時に対応可能な設備会社を確保しておくことも重要です。
なお、オーナーへの管理状況の報告は法律上義務づけられていますが、この際に定期点検を踏まえてトラブル防止につながる修繕提案を行うことで、オーナーとの信頼構築につながります。
参照:e-GOV法令検索|賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律第20条
トラブル対応マニュアルを整備・周知する
発生したトラブルに対し、属人的な対応のムラを防ぎ、対応品質を均一にするためには、社内体制の整備が重要です。
- 想定されるトラブルごとの対応マニュアル・フローの策定
- トラブルを迅速に社内で共有する仕組みの構築
- 新人を含む全社員への研修・クレーム対応のロールプレイング
- 設備修繕会社や外部専門家との連携手順を明文化
マニュアルは、トラブル事例からのフィードバックや法令の改正に応じて定期的に見直し、最新情報を反映させることが大切です。
入居者に対して、共用部分の使い方の周知やマナー向上を目的とした定期的な案内や資料を送付するのもよいでしょう。
国土交通省の民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブックも参考になります
(出典:国土交通省 民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック)
≫ 賃貸住宅管理業法とは? 管理会社に求められる5つの義務
≫ 不動産賃貸管理業のビジネスモデルを解説! 成功するためのポイントを紹介
まとめ
賃貸管理の現場では、トラブルの種は日常の中に数多く潜んでいます。管理会社として必要なことは、単に発生した問題に対処するだけでなく、トラブルの原因を事前に想定し、組織として一貫した対応を行える体制を構築しておくことです。
契約段階での明確な説明、共用施設・設備の定期点検、社内マニュアルと教育体制の整備は、すべてトラブル防止とオーナーからの信頼維持につながります。
賃貸経営・管理上のリスクを減らし、入居者・オーナー双方に安心感を提供できる管理体制を整えることで、円滑な賃貸経営を支援していきましょう。
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